芥川龍之介のペンネームのヒントになったのは娯楽小説家の中里介山の『大菩薩峠』の机龍之介であった。

 ニヒルな殺気だった机龍之介が幕末から明治時代から虚構のありえないファンタジックな世界で英雄的に活躍するなぞめいた娯楽小説でもあったらしい。

 『大菩薩峠』はまさに『ウィザードリィ』のような舞台背景もちょっとありそうなゲームノベルでもあったようだ。

 日本のライトノベルファンタジーというより、栗本薫のグインサーガのように未完の娯楽小説で今もファンも少なからずいて、芥川龍之介も中里介山に影響を受けたのは明白だ。

中里介山


 『大菩薩峠』(だいぼさつとうげ)は、中里介山作の長編時代小説。

 1913年~1941年に都新聞・毎日新聞・読売新聞などに連載された41巻にのぼる未完の一大巨編。 幕末が舞台で、虚無にとりつかれた剣士・机竜之助を主人公とし、甲州大菩薩峠に始まる彼の旅の遍歴と周囲の人々の様々な生き様を描く。

 連載は約30年にわたり、話は幕末から明治に入らずに架空の世界へと迷い込み、作者の死とともに未完に終わった。作者は「大乗小説」と呼び、仏教思想に基づいて人間の業を描こうとした。世界最長を目指して執筆された時代小説で、大衆小説の先駆けとされる不朽の傑作である。

(ちなみに、現在の世界最長小説はヘンリー・ダーガー作の『非現実の王国で』で、最長時代小説は山岡荘八作の『徳川家康』である)

 同時代では菊池寛、谷崎潤一郎、泉鏡花、芥川龍之介らが賞賛し、中谷博は文学史上において大衆文学の母胎と位置付けた。

 戦後にも安岡章太郎「果てもない道中記」をはじめ数多くの研究や評論が展開されている。

 大菩薩峠 (小説)


 未完の長編娯楽小説の『大菩薩峠』の机龍之介は殺伐とした剣士で虚無的で芥川龍之介を思わせる殺伐とした主人公でアンチヒーローとしても名高いが、作家の中里介山は実は左翼というか社会主義な思考もあった変わり者であった。

日本稀人奇人列伝(37) 作家・中里介山、江戸川乱歩、横溝正史のなくて7クセ,変人ばかり

 机龍之介は凶悪な殺人者のように敵を日本刀で殲滅して近寄り難い雰囲気も抜群ではあったが、中里介山は人格者であって小説の机龍之介のイメージとは大きくかけ離れていたようだ。

 独身をあえて中里介山が選んだのは孤独に強くなければ作家としては成功しないという信念もあったようでもある。

夢二とは反対にストイックな生き方をした作家が「中里介山」です。
彼はなかなかの好男子で、小説家として成功して蓄えもあり、
たいへんもてたそうですが、生涯独身を貫き、妻をめとりませんでした。

「世間一般の人が妻子のために払う労力を、できることならば
世の中のためにふり向けたい」というのが理由だそうで、
「私が独身を通すことは神様から定められた運命と確信していますから」と
女性のアプローチに断り続けたと言います。

ドクター月尾・地球の方程式 第239週「変人?奇人?日本の大作家」


 中里介山は女性にはもてたらしいが、小説を書くのが天命ということであえて独身を貫徹した孤独なる求道者のような作家でもあった。

 戦前の『大菩薩峠』も現実から虚構の世界に机龍之介が迷い込むストーリーなのだが、小説は未完だったので机龍之介を『ウィザードリィ』の世界で村正を装備したサムライとして活躍させた時代小説マニアも多かったとも思えてくる。

 ふとしたことで『大菩薩峠』からリルガミン市にやってきた机龍之介・・・と思ってキャラクター作成に余念がない人もいたのだろう。
 
 芥川龍之介のような聡明な頭脳をもっていて、反面、恐ろしく強かった机龍之介も三島由紀夫の楯の会のように好きだった人はPSの『リルガミンサーガ』で漢字で机 龍之介 N-SAM、とキャラクターメイキングにも励んでもいたのだろう。

 今も『大菩薩峠』の熱心な愛読者が司馬遼太郎のようにいて独自研究というか評論も熱心な愛好者がいるのは『ウィザードリィ』の狂王の試練場などの前期作品に通じるものがあるのではないだろうか?

 三島由紀夫の『豊饒の海』の最終作品のような魅力がある中里介山の『大菩薩峠』は『ウィザードリィ』でも隠れ愛好者もまた多そうだ。