昔、自分が挫折した探偵小説で小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』という恐ろしく難解な探偵小説があった。

 妖しげな洋館で密室殺人が起きる話なのだが、悪文というかぺダントリーが強すぎてついに全貌が理解できない作品でもあったのだが。

小栗虫太郎


 ある視点から見れば、そうした筋立て自体はほんの付け足しに過ぎない。

 本書全体の9割以上は、事件解決とは何ら関係しない神秘思想・占星術・異端神学・宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学・犯罪学・暗号学など広範にわたる夥しい衒学趣味(ペダントリー)で彩られており、本来は裏打ちとなるべき知識の披露が全体に横溢し作品の装飾となるという主客転倒を見せている。

 自動人形テレーズや『ウイチグス呪法典』、カバラの暗号、アインシュタインとド・ジッターの無限宇宙論争、図書室を埋め尽くす奇書等々、意表を突く道具立ての連続と相俟って、全体には一種異様な神秘かつ抽象的超論理が貫かれており、日本探偵小説史上最大の奇書とも評する人もいる。

 晦渋な文体と、ルビだらけの特殊な専門用語多数を伴う、極度に錯綜した内容であるため、読者を非常に限定する難読書とされる(これについていけるかどうかは、改行なしの冒頭2頁でおおむね判断可能なほどである)。

 それゆえにか、新本格系ミステリの方面ではこの作品は半ば神格化され、作中にオマージュとして用いられることも多い。

 黒死館殺人事件とは?
 
 何か『ネクロノミコン』のような奇怪な魔道書がある書斎で殺人事件とか、『ウィザードリィ5』の暗号のようなものが出てきて謎解きとか、自動人形テレーズのようなからくり人形とかも出てくる小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』なのだろうが、やはり、難しすぎる探偵小説というか、ミステリなので読者を選んでしまったのだろう。

 好きな人は『ウィザードリィ』の世界のような雰囲気を小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』などに見出してマニアックに高く評価していたらしいが、多くの人は難しいRPGのように思って投げ出してしまういたく難しい小説ではあった。

 余りにも難解な小栗虫太郎の小説も『ウィザードリィ』の世界に通じる雰囲気もあってワードナの玄室とかの背後に魔道書の部屋が小栗虫太郎の洋館のようにゴシック風に展開されていたのか?と想像力も働いたマニアもいたのだろうか?と今、思い返しているが。

 『黒死館殺人事件』を渋澤龍彦は絶賛していたらしいが、難しすぎて難解で読んでいて操作性の悪いロールプレイングゲームのように投げ出してしまい、何度も挫折する奇怪な探偵小説であることは不動のままだろうな、とは思う。

 とはいうものの内容は『ウィザードリィ』的なゴシックな重苦しい地下迷宮の雰囲気も伝わってくるといえば伝わってくるのでアイテムコレクションのように持っていてもいいんじゃないだろうか?

 小栗虫太郎の小説は『ウィザードリィ』のワードナの逆襲のようないたく難しい小説に近いといえば分かりやすいだろう。

 最近は『黒死館殺人事件』の漫画版も発売になったのがうれしい、といえばうれしいかな?